株式会社ビジョン 代表取締役会長CEO
佐野 健一
1969年、鹿児島県生まれ。高校卒業後、1990年に光通信に入社し、数年で部下800人を率いる事業部長に就任。1995年に静岡県富士宮市でビジョンを設立し、国際電話サービスの販売事業をスタート。その後、2012年には海外用モバイルWi-Fiルーターのレンタルサービスの「グローバルWiFi」を開始。2015年東証マザーズに上場し、2016年には東証一部へ指定替え。市場区分見直しで2022年から東証プライム市場。
サラリーマンになんてなりたくない。起業の原体験
弊社は「国際電話の割引サービス」の取次ぎを行う会社として創業し、通信・ICTを軸に時代に合わせてソリューションの形を変えながら事業を拡大してきました。現在の事業の軸は、国内外のモバイルインターネット環境を提供する「グローバルWiFi事業」と、主に新設法人・ベンチャー企業向けにさまざまな情報通信のソリューションを提供する「情報通信サービス事業」の2つです。2015年に東証マザーズに上場し、2016年には東証一部へ指定替え。その後、市場区分見直しで2022年から東証プライム市場にうつりました。
経営者になることは子どものころから漠然と考えていました。居酒屋を営む母親の手伝いをしていると、店には会社の愚痴をこぼすサラリーマンばかり。そんな光景を見てきたからサラリーマンにだけはなりたくないと思っていたのです。
一方で、自営業の母親や工務店を営む父親の周りにいる職人は威勢が良くて生き生きとしていました。その姿が自分が見てきたサラリーマンとは対照的で、自由に生きているなあと思ったのを覚えています。それから漠然と「起業したい」「事業をおこしたい」と考えるようになりました。それが起業を志す原体験となったのです。
しかし何の経験もスキルもない状態でいきなり起業するのは厳しいと思い、「修行期間」としてまずは企業勤めを選びました。起業に向けて動き出した具体的な最初の転機です。
企業選びは、給料といった待遇や条件面は二の次でした。自分の力をつけられると考えた業界・企業の中で将来性や成長性を重視して決めました。選んだのは、なくならない可能性が高いと考えた通信業界です。そしてその中から、特に勢いがあり、高い成長性を感じた光通信で働くことにしました。
そうして光通信で4年半ほど働いたころ、転機が訪れます。ある出張の帰り、乗っていた新幹線が停車した新富士駅で、車窓から富士山が見えました。そこで日本一の富士山をみて日本一の会社を作ろうと決心し、すぐに駅を降りて駅前の不動産屋で物件を契約して起業したのです。
これだけ聞くと咄嗟の行動のように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。意思決定の際に大事にしている「成功確率の高さ」と「未来への影響」の2つの軸はすでに持っていて、富士山を見たことが踏み出すきっかけとなったのです。
この2つの軸において「成功確率の高さ」は特に重要視しています。うまくいかないのにやり続けることは、不幸だと思いますし、誇りをもって働くことも難しくなります。起業を決断した際も、自分がいつ辞めても会社が回るように準備はしており、ビジネスを展開しようとしていた静岡のマーケットの状況も把握してやっていける算段が立っていたからこそ瞬時に行動できました。
ブラジル人の「困った」を解決し初年度から順調に事業を拡大
起業後に静岡に移住したのですが、高校までサッカーをしていたことからそこで地域のサッカーチームに参加しました。そのメンバーは全員南米ブラジル人。彼らは、母国の家族や友人と電話で話すことを楽しみにしていると知りました。しかし、当時は国際電話料金が高すぎて、長電話が出来ないことに悩みを抱えていたのです。
そこで、通信事業者にかけあって割引サービスを作ってもらいました。日本在住の南米の方々向けにコールセンターで加入促進を行ない、2年目で売上10億円、利益2億円を達成。そうして順調に事業を伸ばしていき、固定電話事業や移動体通信事業、ブロードバンド事業なども次々と展開していきました。
このように成長してこられたのも、それまでの経験から、潜在的なニーズを掘り起こすより顕在化したニーズがあるところに積極的にアプローチしたほうが、お客様の成長率が高いと考えたからでした。
2004年ごろからはインターネットの普及に伴い、インターネット上での集客も開始しました。インターネットは顕在化している顧客を掘り起こすことができるツールです。また、コストや成長に対する意識の高い会社を見つけることもできます。
例えば、コピー機やビジネスフォンのウェブサイトを作ったとします。すると、そこにアクセスしてきた会社は、安価で有効なサービスを探しているコスト意識の高さを持っていることが分かるのです。そうした意識の高さは成長率にもかかわります。
そうして、顕在化していてかつ意識の高いお客様を見つけ出し、コンシェルジュを配置して丁寧な対応を心がけました。さらに、時代の変化やニーズに合わせて商品ラインナップを増やし、安く提供してきました。それにより、お客様とのお付き合いも長く深くなり、新商品が出ても受け入れてもらいやすく、他社と差別化が実現できたのです。
海外旅行者の「困った」から誕生したグローバルWiFi事業
もう一つの柱であるグローバルWiFi事業は2012年からスタートしました。当時はまだ海外でのモバイルインターネットの接続環境が不十分で、「長時間利用したら100万円もの高額請求が来た」「通信スピードが遅い」「エリアが狭い」などといった不満の声があがっていたのです。
これからグローバル化を迎える上で、モバイルインターネットの接続環境の問題は絶対に解消しなければいけない課題でした。そこで、解消に取り組むべく世界中の通信会社に電話でアポイントメントを取り、1件ずつ地道に交渉して契約を結んでいったのです。最初はとても苦労しましたが、これまでの通信におけるノウハウと実績があったので、大手通信会社などの協力も得ることができ、非常に助けられました。
こうして、海外渡航者向けに安価で安全・快適にネット接続できる海外用Wi-Fiルーターレンタルサービス「グローバルWiFi」が誕生。2019年2月には累計利用者数が1,000万人を突破し、株式会社ビジョンを支える主力事業に成長しました。
経験を糧に若手起業家たちの力になり、社会への恩返しをしたい
弊社のお客様は、スタートアップ企業、ベンチャー企業が中心です。この層は、最も成長の可能性がある企業といえます。ただ、弊社も経験してきたのでわかるのですが、この層の企業の多くは、オフィスの整備に高いコストをかけることができません。OA機器などの高額製品の導入が難しいですし、そもそも成長のために、事業にお金をかけることが優先されます。弊社のお客様には、そういったコスト意識の高い方が多いので、お客様に無駄な投資をさせないことを信条にサービスを提供しています。
また、時間効率意識の高い方も多いと感じています。例えば自分たちで電話回線を手配するとなると、業者とのやりとりなどで時間も取られます。弊社はそういった手間を一手に引き受け、お客様が事業に専念できるようサービスの提供をしています。
また、特にスタートアップ企業などは、創業後半年~1年ほどで拡大移転をすることも多く、都度手配をしなければなりません。そうした時にも、通信回りをすべて弊社にお任せいただくことが多いです。このように、余計なコストや手間が発生せず、トータルソリューションのサービスであることに評価をいただいています。
これからは恩返しの意味も込め、日本経済を盛り上げることを目指して、できる限りのことをして次の若手を育てていきたいです。就活生とはじめとする若い方々には、決まりや常識、過去にとらわれすぎないようにしてもらいたいと思っています。自分の個性を生かせる自由な発想を大切にしてほしいです。ぜひ自分でリアルな体験をしてください。そして自分の言葉で世界を語れるような人になってください。